ドーナッツの穴と孤独の関係2

 ある日、彼女は大量の手紙と太宰治の『人間失格』を残して僕の前から消えました。メタファーにしても、借りたまま返せなくなってしまった本が『人間失格』なんてきつすぎる。でも未だに捨てられないのは、何処かで万が一会ったときの会話の糸口にしたいからかもしれません。

別れてから数年経って、彼女を見かけたことがありました。でも、声をかけることが出来ないまま、彼女を見失ってしまいました。その時には何を話していいのかわからなかった。そして何よりもその時の彼女のことを知ることが恐かったのかもしれません。

『この時声をかけていれば何かが変わっていたかも』この時に全力で勇気を出せなかった自分を恨んでいます。

それから、更に数年が経ちました。ある日、ふと本棚を整理していると『人間失格』が現れたのです。これは確かに彼女から借りた本でした。そうだ!コレを返す日がいつか来るかもしれない!とその時は根拠のない期待があり又本棚にしまいました。その思いのまま時間が過ぎました。

更に何年も経過した今でも私の本棚にはその本が捨てられずに残っています。こんな物があるから忘れられないのかもと思ってしまう。でも、捨てられない。

こんな思い出に囲まれているから、いつまでも心の穴が埋まらないのかも…捨てる勇気がほしいです。