母の思い出

秋になるといろいろなことを思い出す。

私が学生だった頃、母を傷付けたことをふと思い出した。

4人兄弟、両親は子供好きの保育士。当時はまだ保育士の地位は低く、おそらく、余り豊かな家庭ではなかったことは子供ながら感じていた。出来ることなら迷惑はかけまいと、高校も公立一本受験、大学も浪人せずに行きたい大学ではなく、受かった大学に進学した。

そんな、矢先に彼女と別れ、何が何でも見返したいと自分磨きに励み出す。勉強も沢山したし、本も沢山読んだ。車の免許も自力でとった。何が自分磨きなのか分からないまま兎に角我武者羅にいろいろなことを頑張った。努力で乗り越えられない壁はないというのが私の強い信念だった。

そんなある日、バイト先の年下君がかっこいい車を自慢げに見せてきました。親に買ってもらったそうです。私は何故か無性に腹が立ちました。その勢いのまま家に帰るなり母親に

『車を買いたいからお金を貸して欲しい。』と言いました。

母親が難しい顔をしたので、また無性に腹が立ち、『兄貴は浪人して、妹は私立に行った。なんで俺だけ我慢しなくちゃいけないの?』言ってはいけない言葉だと薄々感じていましたが、無性に腹が立って言ってしまったのです。私は母から叱られることを期待していたのかもしれません。

『怒られる!』そう思った瞬間でした。

母はとても悲しそうな表情をして

『ごめんね。』と言いました。

私は後悔しかありませんでした。そんな言葉は聞きたくなかった。叱ってくれたほうがよっぽど気が楽だった。混乱した私は抜いた刀をおさめることができず、怒り顔でその場を去りました。

数カ月後、母は私に100万円をくれました。祖母から用立ててもらったとのことでした。私はこの時のことを忘れられません。祖母に頭を下げた母のことを思うと苦しいです。

まだ言えてないけど、いつか言おう!

『お母さん。ありがとう。』